タイのインラック首相とミャンマーのテイン・セイン大統領は17日、ミャンマー・ダウェーで会談し、ダウェー開発の共同事業化を再確認。総事業費約1兆円 を超えるとされるダウェー経済特区(DSEZ)開発計画は大きく動き出した。深海港と道路インフラは2015年完工を目指す。こうした中、同案件の事業化 に携わってきたタイ建設最大手イタリアンタイ・デベロップメント(ITD)で社長顧問を務める本田極(きわむ)氏は、事業計画に日本の官民が積極的に関わ るよう訴えている。【南堂知子・遠藤堂太】
──ダウェー開発のメリットは
ダウェーからタイ国境までの道路インフラが完成すれば、ベトナム南部からの南部経済回廊と、海路でインドを結ぶ戦略的な交差点となる。ここを物流・製造拠点として開発する意義は大きい。
「(ダウェー深水港によって)タイ・レムチャバン港やシンガポールの貨物を奪う」ということはなく、タイの西の玄関として、メコン地域や東南アジア諸国連合(ASEAN)経済全体の底上げに資するし、むしろ相乗効果を生むことが期待される。
タイでは開発が難しい高炉や石炭火力発電、石油化学産業などの重工業だけでなく、軽工業を含む各種産業も誘致する。日系企業の集積が進むタイの産業基盤をより強化するメリットがある。
──どのような開発スキームとなるか
タイ政府はITDを開発主体とする構造は維持しつつ、一企業としては困難な道路、港湾などの大規模インフラ整備のため、タイ港湾公団(PAT)、高速道 路公団(EXAT)などの政府系企業が中心となって出資する特別目的事業体(SPV)を設立する構想を固めているもようだ。政府はインフラ整備を受け持つ SPVを間接的に後押ししながら、将来的にタイの産業全体を底上げする基盤として活用する狙いだ。
11月に発足した閣僚による共同委員会は、ITDが策定したプロジェクトのマスタープラン(基本計画)を精査し、タイ政府として道路・港湾以外のインフ ラ事業をさらにどのように支援・後押しができるかを検討。インフラファンドを設立して、そこから出資する案も浮上している。来年3月までに両国としての方 針をまとめる予定と聞いている。
ITDは、一出資者としてインフラ事業にかかわるとともに、一方で工業団地の開発や周辺のコミュニティー開発、運営事業の部分を他の民間企業とともに進めるという構図になる。
──日本政府は、ヤンゴン近郊のティラワ工業団地開発への支援に積極的な一方、ダウェー開発には距離を置いています
ダウェーは日本にとってこそ重要なプロジェクトだ。すでにインラック首相が野田首相に対し協力を打診しているが、近々SPVへの参画をタイ政府は日本に正式要請することになる。タイ政府のラブコールに日本政府が応えれば、日本企業も動き出すだろう。
ティラワの10倍の規模(205平方キロ)、重工業をメーンとする長期事業は時間がかかるため優先順位が後になるのは理解している。しかし、日本にとっ てこの事業は戦略的に極めて重要な意味を持つ案件であり、明確な協力姿勢を打ち出す時だ。いつまでも日本政府の態度がはっきりしなければ、他国に遅れをと ることが懸念される。
タイ政府は日本がティラワ案件に傾倒し、ダウェーに本腰を入れないことに焦燥感を持っており、アジア開発銀行(ADB)や世界銀行グループの国際金融公社(IFC)と交渉を図っている。また米国も、オバマ大統領が再選直後にミャンマーを訪問しており積極的だ。
──中国・韓国の動きは
中国は当然、触手を伸ばしており、当社プレムチャイ社長へのアプローチも頻繁に行われている。
韓国からの視察団も近く、ダウェーに来る。先日はある韓国企業大手が、工業団地で働く技術者育成をにらんだ職業訓練校の設立計画をオファーしてきた。長期的視野に立った戦略的な視点を韓国は持っている。
政府の明確な後押しが見当たらないのは日本だけだ。当社もタイ政府も、日本の官民がダウェーに投資することを狙っている。ダウェーの長期的な戦略価値を日本は検討してほしい。(後編に続く)
<メモ>
■ダウェー開発計画の経緯
1994年に事業調査をITDなどが開始。通貨危機で一時中断
2008年5月19日 ミャンマー、タイ両国が開発協力で政府間覚書を締結し、同年6月12日ミャンマー港湾当局とITDが開発事業契約の覚書締結
2010年11月2日 ミャンマー港湾当局とITDが深海港、工業団地、道路、鉄道の開発事業契約の枠組み協定締結(60年の事業権、75年までの土地貸借権)
2011年1月 ダウェー経済特区(DSEZ)法成立
2012年7月23日 ミャンマー・タイ両国が開発協力で新たな政府間覚書を締結
同年11月7日 第1回二国間閣僚会議をバンコクで開催。6部会から成る共同委員会を設立